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村上にはなんと百種類もの鮭料理があり、古くからの歴史があります。塩引き鮭のように時間をかけ発酵させて作る独特のものから、なわた汁といって内臓は味噌汁にしたり、新鮮な白子は刺身で、心臓は塩焼きにし、さらに中骨も柔らかくなるまで煮込んで食べ、頭や皮はもちろんエラまでも食べるという、北海道はもとより他の地域では考えられない特殊な鮭料理が受け継がれているのです。
発酵させてつくる代表的なものに塩引鮭、鮭の酒びたし、鮭の飯寿司、鮭のめふんなどがありますが、塩引鮭で約3〜4週間、酒びたしで一年、飯寿司は一ヶ月、めふんは2年もかかってでき上がります。
普通は捨ててしまう特殊な部分を使って作る料理として、代表的なものが内臓を使って作るナワタ汁、苦味など無くダシなど入れずともとても美味しい味噌汁になるのです。獲れたてのオスの白子は刺身にして食べても実に美味しく、心臓はドンビコと呼び串にさして塩焼きにして食べます。中骨はドンガラと呼び3時間ほど甘辛く煮込むと、柔らかくなり旨みも増して美味しい煮物になります。
その他にも人気ある鮭料理として、ハラコ(いくら)の醤油漬はもちろんですが、焼いた鮭を熱いうちにダシ醤油に2〜3日漬け込んで食べる鮭の焼漬や、鮭の身をすり身にして皮とハラコを入れて作る鮭こかわ煮、頭の軟骨を使って作る氷頭(ヒズ)なます、などいろいろあります。
世界の食材を手にいれ、更に美味しいものを作ろうというこのグルメの時代にあって、一尾の鮭で作る村上の鮭料理は素朴なものかもしれません。しかし「一尾の鮭を大切に思い活かしきる」この料理には、決して他のグルメの料理がかなうことのできない、美味しさと、凛として、美しい「食の美学」があるのではないでしょうか。
村上の鮭の呼び方は独特です。内臓はナワタと呼び、心臓はドンビコ、いくらはハラコ、エラはカゲ、中骨はドンガラ、頭の軟骨は氷頭(ヒズ)、背腸をメフン、オスはカナ、メスはメナ、鮭のこと自体イヨボヤと呼びます。これは鮭にしか使わない「鮭ことば」と言われ他の魚には絶対使いません。独自の文化を感じますが、この他にも村上の鮭料理は行事ごとの節目の大切な料理として使われています。その主だったものを紹介します。
<7月7日・夏祭りの鮭の酒びたし>
7月7日は村上の夏祭りです。この日はオシャギリという山車がでて、各家庭では大皿に持ったお祭り料理が作られ、お祝いするのですが、そのお祭りを飾る家庭の自慢の鮭料理がそれまで数ヶ月かけてじっくりと熟成した鮭の酒びたしです。薄くスライスしてお皿に並べお酒をかけて食べる昔からの風習なので鮭の酒びたしと言います。世界で唯一、秋に獲れた鮭を夏まで熟成させ最高の味を引き出す料理がこの鮭の酒びたしです。
<11月・袴儀(はかまぎ)の鮭料理>
村上では5歳の男児のお祝いを七五三ではなく袴儀と言う儀式でお祝いします。このお祝いを鮭料理でするのですが、親戚縁者を招き披露宴なみなみのお祝いをするのです。この儀式が終わると5歳の男の子は一家の主人の名代としてどのような会合にも堂々と出ることができるのですが、これを鮭料理でお祝いするのが村上ならではです。その意味には村上で生まれ育ち、仮に都会に出て社会の荒波にもまれても、たくましくなってまた村上に戻って来いという気持が込められているのでしょう。
<12月大晦日・年取り魚の塩引鮭>
大晦日の晩、年取り魚として食卓のメインディッシュを飾るのが塩引き鮭です。この塩引き鮭の胸ビレについているカマの部分を「一のヒレ」と言いますが、この一のヒレを食べていいのが一家の主人だけなのです。神様と仏様にお供えしてから、主人が食べるのですが、奥さんが食べようとすると「かかあ天下になって、家が乱れるから駄目だ」と言って食べさせず、娘さんが食べようとすると「一生涯良縁が来なくなるぞ」と言って食べさせず、今でも一家の主人の威厳として塩引き鮭の一のヒレの伝統があります。なぜ一のヒレがそれほど大切なのか。それは鮭が卵からか顔を出し、ヨチヨチ泳ぎを始めてから成長して一生を終えるまで、たとえ体は止まっていてもこの一のヒレだけは絶えず動き続けるのです。一生涯働き続ける不思議な生命力の宿る場所として、その家の大黒柱である主人にその生命力をあやかってもらいたいと言う気持が込められているのです。
<一月・正月料理を飾る鮭の飯寿司>
村上では特に重箱に入れるようなお節料理の習慣は無いのですが、正月料理を彩るのが鮭の飯寿司です。木の桶に笹をひき麹とご飯を合わせたものを床に敷き、その上に薄く切った塩引き鮭の切り身を載せて塩とお酒を振って笹をかぶせ、5段に重ねて仕込みます。本仕込みであれば約一ヶ月の間じっくりと乳酸発酵させてつくる熟れ寿司が鮭の飯寿司です。これがないと正月を迎えた気がしないという村上の人は多いです。
このように村上の鮭料理は単に料理にとどまらず、一年の節目節目に大切な役割を持ち、他の地域にはない独自の鮭食文化を持っているのです。




